バスガイドの基本

「バスガイドの基本」なんて偉そうなタイトルをつけてしまいましたが、バスガイドはこうであるべきなどというような内容ではありません。
私がバスガイドとして、どういう風に自分なりのやり方を身につけてきたかという過去の経験談とでもいいましょうか、記録のようなものです。あとはあの時こうしていればなぁと思うような勉強方法でしょうか。
このブログを見てくれている若いバスガイドさんもいるということで、悩めるガイドさんに向けた内容となっています。それ以外の方は読まないでください(笑)。かなりの長文です。


私はバスガイドになりたくてなったわけじゃありませんので、どんなバスガイドに憧れるのかとか、どういう風になりたいとか全く考えたこともありませんでした。バスガイドを5年間経験した後に、1年間だけ添乗員の仕事をしましたが、その時に全国の色々なバスガイドさんを見て、やっと自分の目指す方向を見つけたのです。
色々なバスガイドさんがいます。面白いガイドさん、知識豊富なガイドさん、お客様の好みもあるから一概にどんなタイプが良いとは言えません。バスガイドを指名する理由も色々です。知っている人がよい、若くて美人だから、愛想が良く親切だったから、知識が豊富だからなどなど。でもやっぱり楽しい旅行をさせてくれるガイドさんが良いというのは共通しています。
でも「お客様に楽しい旅を提供する」のは基本中の基本であって心構えです。笑顔と心遣いさえあれば問題ありません。
バスガイドの最初の段階で苦労するのは暗記です。
私は大阪のバス会社でしたが、基本的には大阪のお客様を連れて旅行に行くというのが多かったです。このため今日は東に明日は西に、あさっては南にといつも行き先がバラバラでした。
バス会社によってもガイドの教育方法が全く違います。
飛行機や新幹線で現地まで行き、そこからバスで観光に入る団体を受けることが多いバス会社と、地元のお客様を遠方へ連れて行くバス会社でかなり違います。私がいた会社は後者の方でした。
京都や奈良の修学旅行生を受けているバス会社では、まず入社してすぐに京都市内や奈良市内のテキストを丸々一冊丸暗記させます。聞いたことない名前の人物もいっぱい出てくるし、言葉は難しいしと高校を出たばかりの女の子達にとってはさそがし大変でしょう。でも丸暗記さえ出来たら立派に仕事はできるのです。もちろん質問されても答えられないし、教えてもらったこと以外の知識は無いので、決して十分とは言えませんが。
しかしこのテキスト丸暗記こそが、若い時にしかできないバスガイドの基本になるのです。考えなくても言える、寝てても言えるというのは強い味方になります。
私の場合といえば、まず1年生の研修では名神高速道路や北陸自動車道の暗記から始まりました。とは言っても京都の会社のような完全丸暗記が出来ないとバスガイドになれないという厳しさではなく、適当に暗記の練習をさせられただけで、今日覚えても明日には忘れているという状態でした。
このため実際の乗務でも、最初は横にテキストを置き、チラチラ見ながら案内をするのが普通でした。実際にはチラチラ見も無理で、かぶりつきでテキストを読んでいるだけというガイドもいました。だからトンネルに入ると字が読めなくて中断してしまうのです(笑)
私の同期の中には面白い子がいて、ガイドの教室で人物の名前の読み方も習っているのに、その時に振り仮名をつけるのを忘れていたらしく、マイクを持ちながらどうしてもその名前が思い出せなかったそうです。「源(みなもと)頼朝(よりとも)の名前が出てこなくてさー、仕方ないから源のフニャフニャが・・・ってマイク遠ざけながら喋ったわー」と笑いながら言ってました。わざと聞き取れないように喋ったんだそうです(苦笑)。経験を積むと、ど忘れしたりしてどうしても名前が出てこなかったりすると、源某(なにがし)が等と適当にごまかすんですが、1年生ではそれもできません。
おまけにテキストばっかり読んでいるので、周りの景色が見えず、実際に走っている場所と案内している場所がずれていくこともあります(汗)。
「右手に見えておりますのが、男山です」と案内していると、いじわるなお客様に「ガイドさん、男山は3分くらい前に通過したで~」と言われることもあったようです。
私の場合は丸読みはしていませんでしたが、カンニングペーパーを横に置いて、チラチラ見ながら案内していると、後の方に座っているお客様から「ガイドさん、本読んでるんか?」と声がかかり、前の方のお客様が「いや、このガイドさんは、ずっとは見てないよ。時々見てるだけや。新人にしてはなかなか優秀やで。」と答えてくれたのに、当時は喜んでいました。京都では何も読まずに案内している1年生がいるということを知らなかったのです。
それからも私は自分で本を買い、テキストに載っている事以外の知識を仕入れ、それをカンニングペーパーに詰め込んで、チラ見しながら案内を続けていました。渋滞の時やや山の中の何もないところをどうやって喋り続けるかに重点を置き、知識を仕入れることばかりに集中していました。調べることが嫌いじゃなかったというのもありますが、マイクを持って無言でいることが嫌だったんですね。
1年生から2年生になる冬のオフシーズンに、初めて京都の定期観光バスの乗りました。20代後半くらいの綺麗なバスガイドさんでした。流れるように出てくる案内は聞いている方も安心でした。全て決まった台詞を話すように、余計なことは言いませんでした。信号待ちで止まっている時は、無言の時間もありました。定期観光バスは毎日同じところを走っているから、ああやって丸暗記で話せるんだ、いいなーと思いました。
でも・・・自分だって一応最初に名神高速は暗記したじゃないか・・・。今のままだとずっとカンニングペーパーを手放せない。いくら勉強しても、つっかえたり、言葉を考えながら案内していたんじゃ聞きづらいんじゃないだろうか・・。そういうことが頭に浮かんだのです。よし、もう一度名神高速を丸暗記しよう。テキストを見なくても言えるように覚えよう!そう決心しました。
名神を暗記したというのは、私のいた会社では例えば「万博公園」という案内項目をひとつ暗記すると先生の前で発表し、できたら次の場所を覚えるというだけで、完全に通して覚えたわけではないのです。次の日には前日覚えたことも半分忘れてました。それを全線通して言えるように覚えなおしたのです。
よし、覚えたと思っても、「もし案内の途中で忘れたら?」と思うとテキストを離すことが最初はできませんでした。思い切ってテキストを鞄の中にしまい込み、マイクを持った時の不安な気持ちは今でも思い出すことができます。
でもその日からずいぶん楽になったような気がします。その後北陸自動車道、中央自動車道を暗記し、距離を伸ばしていきました。もちろん高速道路を降りてからや、行く先々の案内をすべて暗記したわけではありません。
でもコツがつかめるようになっていったので、誰それがどこで何をした場所だという部分を箇条書きし、それを覚えるだけで、自分の言葉で喋れるようになっていきました。
自分でその場で文章を作って喋るというのは神経を使います。体調によっては滑らかに言葉が出てこないこともあります。でも丸暗記しているならば、その心配はありません。
そのうちただ丸暗記だった文章も少しずつ自分でアレンジしていったりして変化します。(でも後にはあまりアレンジしない方がよかったと思うようになりましたが)
テキストの案内だけでは足りない部分を自分で勉強して知識をして増やしていきました。でもそれは知識だけじゃなくてもいいのです。物語でもいいし、ネタ披露でもいいし、上手なら歌でもいいのです。別に手品でもかまいませんし、落語を覚えて披露してもいいんです。その部分がその人らしさになるんです。下手に難しい知識を仕入れて案内するよりも、その地の出身の芸能人のネタ話の方が喜ばれるかもしれません。年配の男性には芸能人より政治家のことの方が興味を持たれる人が多いです。
しかし、だからといって案内することを忘れてはいけません。関西の年配のバスガイドさんの中には一日中世間話だけで終わる人もいます。それで面白かった楽しかったとご指名が来るガイドさんもいます。でもそれだけでは全てのお客様には対応できません。しょっちゅうそこを通り、見慣れてしまった景色になっているお客様には、観光案内は必要ないかもしれませんが、遠方からはるばるやってきた観光地で、見るもの全てが初めてのお客様に世間話ばっかりでは駄目です。中には世間話を聞きに来たんじゃないと怒る人もいます。
4年生くらいまでは、テキストの暗記と現地で見たり聞いたりした話や名物の紹介くらいで十分だと思います。何も無いところを喋るためにひとつくらいネタを自分で作っておきましょう。その間に歴史の勉強や地理の勉強はしておきましょう。自分のためであって知識を披露するためではありません。嘘を言わないために、質問された時に答えられるようにということです。自分が案内している人物がどんな人なのか、何をした人なのかを知らないでは話を広げられないからです。そうした知識は決して無駄にはなりません。
でも覚える能力は、年を取ることで衰えていきます。若いうちに出来るだけ多く基本的なコースを暗記しておくことが理想です。九州、四国、北海道といった現地を案内するガイドさんは、同じところを回ることが多いので、覚えたことを話すことによって身につきますが、東京、名古屋、大阪といったあっちこちに行かなければならないガイドさんは、コースを覚えてもなかなか実際に連続でそのコースに行くとは限らないので、だんだんと忘れてしまうことも多いですが、一度覚えれば行く前にちょこちょこっと見るだけでも思い出すものです。
それ以降は何かに特化したガイドさんになれるといいですね。漫談ガイドでもいいし、歌のガイドさんでもいいじゃないですか。ガイドさんは自分が一番と思っている人が多いです。それだけ自分が頑張ってきたっていう証拠だと思います。
ちなみに私の場合は、25歳くらいであれ?物覚えが悪くなったかしら?と思いましたが、それでも30歳まではまだまだ大丈夫でした。35歳過ぎたら暗記力がガタ落ち・・・。今はもう新しいことを覚える気にもなれません。でも新しい建築物や新しい道路が出来るので対応しなければなりませんから、覚えて喋ります。誰かに話すことによって覚えるという方法もあります。
どうやって暗記するの?暗記が苦手だという人もいるようですが、暗記の方法なんていうのは人によって違います。これが一番良い方法なんて無いと思います。
落語家さんや俳優さん、色々な暗記をしなければならない職業があります。私の父の友達の一人が昔裁判官だったそうですが、六法全書を食べながら覚えてたと言っていました。本当かどうかわかりませんけど(笑)。
私はブツブツ派です。ただ繰り返して文章を言いながら覚えるだけです。だからブツブツ派です。
最初はワンフレーズずつ覚え、次に段落で通して言えるように、そして最後にひとつの場所の案内を通していえるようにしました。順番は・・・自然に覚えます。吹田インターのボタンを押せば、吹田インターの案内がでるように、関ヶ原の合戦のボタンを押せば、案内が流れるようにという感じでいいのです。
ただし、座って覚えようとすると眠くなるので、大体は立って歩きながら覚えるタイプでした。
暗記は誰でもできます。多少早いか遅いかはありますが、学校の校歌を覚えられた人なら誰でもできます。
そして九州長崎なら「この子を残して」、山口なら「峠の松」、関西なら「赤穂浪士」、中部なら「野麦峠」のような有名な語りのお話は、必ず丸暗記です。できるだけ若いうちに覚えておきましょう。途中でつかえたり、ひっかかっては感動の涙も途中で止まってしまいます。
これらは自分の会社のテキストでは物足りないと思えば、自分でアレンジして覚え直すのもいいと思います。
色々書いてきましたが、私は決してあちらこちらからご指名が来るような素敵なガイドさんではありません。自分で言うのも変ですが、そこそこのガイドです。私へのお褒めの言葉の多くは「聞きやすかった、わかりやすかった」というものです。ただその日によって出来がかなり違います。今更ですが、やっぱりもっと若い時にたくさん暗記しておけば、今もっと楽できただろうになと思うことが多いです。そうすれば前日に四苦八苦して勉強しないでもネタ考える時間ができたのにって感じですかね?(笑)
理想とするガイドの姿は人によって違うと思います。自分のなりたいように勉強していったら良いと思います。私は1年間添乗員をして、全国のバスに乗り、色々なガイドさんと出会った結論として、こんなガイドになれたらなぁと思うガイドさんを理想の姿としました。
ちなみにお客様のアンケートで評価の高かったガイドさんというのは、まずしっかり案内が出来る人、感動させてくれる例えば「野麦峠」のような話がうまい人、ご当地言葉を面白く紹介してくれた人などでした。
しっかり会社のガイド教本を覚え、次に行く先々で現地の情報を仕入れることです。そして勇気があるならば、現地のバスガイドさんにわからないことを聞いたりしてみましょう。最近ならばテレビの県民ショーといったおもしろネタ満載の番組もありますから、それを元に質問するのもいいかもしれません。テレビで見た内容が真実かどうかを現地で尋ねるだけで、何か更に発展したネタや別の情報を仕入れることが出来る可能性もあります。
長くなってしまいましたが、まだ新人の迷えるガイドさん達には少なくとも4年頑張ってもらいたいです。東西南北にそれぞれ1泊2日のコースが行けるようになったら、結婚して退職し、何年か経った後でもまたその経験を活かしてアルバイトガイドになることもできます。たぶん今20代のガイドの人口は過去最低と言ってもいいくらい少ないと思います。ガイドの需要は少ないですが、0にはならないはずです。貴重な存在になる可能性もあるので、絶対に続けて欲しいと思います。頑張ってください。

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